町は時代と共に変わっていった。
のどかな田園風景から、近代都市へと――。





「ねぇおばあちゃんっ、早くスカイビル行こうよー」
「待っておくれよ、明花」


少女は老婆をせかし、スカイビルとやらにどんどん突き進む。
老婆は曲がった腰を精一杯たたせ、天に聳えるような高いビルを見上げた。


(いつの間にこんなのになっちまったんだろうねぇ)


寂しそうに眉を顰めた老婆の脳裏に、50年前の此所の風景が過る。


田が広がり、畔道をどろんこになりながら走り、子供たちは裸足同然で田畑をかけめぐる。
老婆も美しい娘だったのだ。


あの時とはまるで違う。
ここはもう『昔』ではない。『今』なのだ。


「おばぁちゃぁんっ!」


少女の呼び掛けで老婆はハッと前を見た。
少女はビルの入口で、彼女に向けて大きく手を振っている。


「今行くよ、ちょっと待っておくれ」

 

 よっこいしょ、と掛け声をかけ、老婆は少し悲しそうな表情をしてから、ゆっく
りと少女の元へと歩き出した。

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もともとは自作お題のうちの最初の言葉。

つか、短。

緋隅小夜