隣にいるのは、俺にとっての愛しい人。
俺にとって、なだけで。彼女にとって俺はただの男で。
それが、悔しくて。

「…アキ」

小さく名前を呼ぶ。それすら俺にとっては難しかった。だってその名前を呼べば、幸せになっていくから。

彼女の名前は、魔法のようで。

「……なに?」

振り返り微笑む。
途端に言いたかった言葉は引っ込んでしまった。

…なんてこった。

「…?」

…まったく、初恋なんてする年でもないのに。

彼女はいままで付き合った女とは違くて。大人なのに子供っぽい。

「…どしたの」
「な、あんでもねぇよ」
「へんなの」

くすくすと笑って。

それからアキは俺の手を取った。

「…なんだ?」
「んー?」
「なんだよ、これ」
「手を繋いだ」

にい、と笑って、アキは続ける。

「何か問題でも?」
「いや、ねぇけど」
「じゃあなによ」
「…なんで手なんて繋いでんだよ」
「だめなの?」
「ダメじゃないけどさ」

繋いだままの手はあたたかい。

俺がほしいぬくもり。今は、この手にあるけれど。

「繋ぎたくなったから繋いだ。…それだけだよ」

笑っていう彼女に、かなわないな、と小さく俺も笑う。

そんなコイツが、俺はやっぱり好きなんだな、と改めて感じた。

 

 [戻る]

千歳の誓い 恋愛5題  淡く より   01そっと手をつないだ