いつだって余裕なんてものはない。
あたしは彼が好き。でも彼があたしのことを好きかなんてわからない。
…だってあたしは、魔女でもなんでもないんだし。
ただの女で、人が何考えているのかなんてさっぱりで。
だから、彼がいつ、誰にとられるかがすごく心配で、心配で。
だからあたしは、繋ぎとめておかないといけないんだ。
「アキ」
彼はあたしを呼ぶ。
…情けないな、全然気がつかなかった。
いつもなら彼が来た瞬間に気がつくのに。
「どしたの琢巳(タクミ)」
彼はいつでもかっこいい。
それに優しい。一緒にいて楽しい。
…だから好きになった。いつの間にか。
小さい子みたいな理由ね、と自分で笑う。
恋なんていつも単純だ。
「図書館に来ただけだ」
「あ、そ」
「そしたら、たまたまぐーぜんお前がいた」
あたしと彼の趣味は同じ。
故に持っていた本もおんなじようなタイトルで。
「隣、いいか」
彼はそう言って、あたしの返事も待たずに座る。
結構自己中。あたしの話なんて聞かないんだ。
「いいって言ってないよー?」
「ん、返事期待してないし」
「じゃあ聞かないでよ」
「あれは建前」
社交辞令ってやつ?と笑いながら彼が言う。
こうして隣にいるだけであたしはドキドキするっていうのに、こいつはなんも感じないみたい。
…それがちょっとさびしいのに。
「ねー琢巳」
だから、ちょっとくらいちょっかいだしたっていいじゃない。
あたしはあんたがほしい。
あんたの隣はあたしだけのものにしたい。
でも、あんたの気持ちは分からないし、あたしはそれを言葉にする勇気はないから。
「ん?」
読んでいる本を一緒に読もうと寄り添う。
彼の体温があたしにも伝わる。
…あたしなんて震えてるのに、なんでこいつは平然としてられるんだろ。
答えは一つ。分かってるから嫌になる。
彼の顔を見たくなくてあたしは本に集中する。
惑わしてやれないあたしが、もどかしい。
あんたの隣がほしいのに。あんたが好きなのに。
あたしは。
…あたし、は。
千歳の誓い 恋愛5題 淡く より 02君の隣にいると肩が震えた